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小さいながらもゆとりある楽しい住まい

大量消費時代ヘの反省にともない、「省エネ」「長寿命」「エコ」という言葉も定着してきた昨今、また不景気な時代が長く続く中、作り手側からは節約に関する様々な提案や選択肢が用意されるようになりました。
一方、受け手の消費者は自分の目的や予算に合ったものをより厳しく見極める“チカラ”を身につけたことで、その分買い物もいっそう上手になってきたはずです。
こんどはその知恵を家づくりにも活かす時、私たちは何を大切にすべきかを考えてみましょう。


 自分たちに必要なモノを選んでいつも身近に置いて楽しみながら、自分たちに見合ったシンプルな生活をする、これが現在のライフスタイルのトレンドのようです。 それは単なる「節約」ではありません。自分の好みや考え方、暮らし方を改めて振りかえり、必要度の高低を整理できてこそ成り立つスタイルです。
 さまざまな物の中でも、世代を重ねて住み続けるような家づくりの場合、予算の割り当てや将来のライフスタイルの変化とのバランスを考えることは特に大切です。
 大きなものから引き算した結果の消極的な選択ではなく、実用性や品質も考慮しながら、“将来性”という足し算も視野に入れた家づくりを考える必要があります。


意外に油断しがちな土地選びのポイント

 土地選びは家づくりでの最も重要な第一歩です。坪単価の安さだけに引かれて安易に決断するのは危険です。宅地への転用が可能な農地や山林をそのまま安く入手して広い敷地でゆったりと生活したい、そんな夢も素敵ですが、道路や上下水道は大丈夫でしょうか。一方、古くからの集落だからとか、付近にも家があるから大丈夫と安心してしまうのも早計です。造成分譲地も含めて、どの敷地も地盤調査の結果次第では、地盤改良工事のための思わぬ出費が考えられます。自然が豊かな長野県ですが、山が多い分だけ災害の危険も多いということです。
 行政が発行している「ハザードマップ(災害危険情報)」や「土砂災害指定区域図」なども参考に、その土地や周辺地域のリスクを知り、避けるべきはできるだけ避けておくことです。また、地球温暖化による気候の変化がその原因とも言われるように、災害の発生箇所・種類や大きさも予想を超えるケースが多くあります。親の代に大丈夫だった土地だから自分の代も安心だとは言いきれません。
 法律も変わり、今まで以上に見えないところにもお金の掛かる家づくりを強いられる時代となりました。


譲れないものと妥協できるもの

 何を優先するかを整理整頓することは自分なりの家づくりを考える上での楽しみのひとつです。あれも欲しいこれも入れたいの結果として、ただ漠然とした家になるよりも、思いをギュッと凝縮した自分なりのこだわりのある家づくりも魅力があるはずです。
 料理することと食べることを何よりも大切にしたい、共働きで忙しいので家事効率を優先させたい、たくさん人の集まる家にしたい、これからの時代はやっぱりソーラー発電、趣味のスペースは小屋裏部屋でいいから絶対欲しい、週末はミニシアターでくつろぎたい・・・などなど。
 間取りや予算を考える前に、先ずは「大事にしたいこと、譲れないもの」を描くこと から始めてみましょう。そしてそれらに優先順位をつけてみましょう。自分たちの願いを実現するにはどんな建設スタイルがよいのか、どんな業者を選べばよいのか、資料を集めたり説明会や見学会にも参加してみましょう。


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ゆとりある暮らしをめざして

 無理をして家づくりをしても、快適で穏やかな生活が送れなければ家族の会話も弾まないでしょう。“ゆとりある暮らしをしたい”と考えるのはすべての世代に共通して言えることではないでしょうか。
 一方、自分たちの希望のすべてを織り込むことの難しさも、多くの人が必ずといっていいほど直面することです。間取りと部屋の広さや収納、設備機器への希望などが現在の生活と比べてみれば考えもまとまり易い反面、建物の耐久性や維持管理の問題、壁や窓の遮音性・防音性・断熱性などに関することは、消費者の皆さんとすれば計画の段階ではなかなか想像しにくいことではありますが、質の高い暮らしのためには性能や機能が重要なポイントでもあります。
 道路騒音や隣家の車の音、人の声や生活音がマンションでも問題になりますが、これらのことは、そこでの実際の生活が始まって初めて実感として自分なりの評価を出すことになるのかもしれません。こんなことなら、こちらを優先すべきだったということにならないように、家を建てる敷地の周辺の状況や将来性についても考えてみたり、現在の生活のマイナス部分の繰り返しにならないように、疑問を解決してゆく中で冷静に優先順位の見直しをしてみることも大切です。
 予算を希望に応じてバランス良く使い分ける一方、節約すべきところは思い切 って節約し、その分を自分たちの思い入れの部分やこだわりの強い部分でチョッと贅沢をしてみる、そんなメリハリ感をもつことで節約した意味も活かされるのではないでしょうか。
 コミュニケーション不足の時代の中にあって、家族の絆を大切にしながら手間ひまをかけて自分なりのライフスタイルを築きあげる、若い世代ほどそんな思いが強いようです。
 「小さいながらも豊かな家」という発想もそんなところにあるのではないでしょうか。


お話を伺ったのは
建築モード代表 一級建築士 吉田稔さん
佐久市瀬戸888-4 TEL.0267-63-3853